◇第1話 もしもインターネットがなかったら・・・

 

 私は今月(2020年3月)で53歳になる、どこからみても"お・じ・さ・ん”です。私が社会人(初めは高校の教員)になった平成2(1990)年は、まだ自宅にインターネットの環境はなく、ISDN64×64=128(ロクヨン、ロクヨン、イチニッパー)と呼ばれた通信網(ナント、128kbps遅い!)が普及し始めたころです。

 

 このページを読んでくださっている読者の方は、やはりビートボクサーやヴォイスパーカッショニストの方が多いでしょう。特に大学生くらいまでの若いビートボクサーの皆さんは、インターネット動画で演奏技法を学んだり、初めて見たヒューマンビートボックスがネットの動画だったという人も多いでしょう。ちょっと上の世代なら、初めて見たビートボクサーは、AFRAさんのゼロックスのCMだったという人、ヴォイスパーカッショニストなら、ハモネプが最初だったという人が多いと思います。

 

 ここに、情報を得る媒体が、インターネットかテレビかという大きな隔たりがあります。さらに上の世代になると、テレビやCDショップでもまだヒューマンビートボックスという言葉やボイパという言葉が登場せず、自分でレコードを買いあさったり、ラジカセで実際の演奏を生録音して、それを繰り返し聞いて音の出し方を想像するという世代になるでしょう。これがAFRAさん世代。

 

 今は、インターネットで誰もが手軽に動画を視聴できる時代。ビートボックスの技法もインターネット講座でいくらでも観られる時代になりました。逆に、自分の演奏もどんどんネット上で公開できるようになりました。そんなある日、ビートボクサーの“すらぷるため”さんにこんな質問をしてみたのです。

 

 「ヒューマンビートボックスでは、師弟関係ってあるのかな?」

 

 彼は「そういうことを、そもそも考えたことがなかった。」という返答でした。今では、ZU-nAさんのようなネットとリアルな教室の両方で活躍されているビートボクサーもいらっしゃるのですが、多くのビートボクサーは、インターネット上の情報を元に、自らが試行錯誤して技術や演奏スタイルを学び、そして自分の演奏スタイルを探しているのではないでしょうか。調査したことがないのではっきりした数はわかりませんが、中には、習得過程で限界を感じやめていく人、○○大会で賞を貰ったけど仕事がないから埋もれてしまったという人もいるかもしれません。

 

 多くの音楽表現の場合、師匠(先生)がいて、その師匠が演奏技術だけでなく、時にはその業界での行儀作法や裏話なんかも伝えてくれるので、プロを目指して挫折した時や、「そもそもプロなんか目指すな、それを活かせる学校の先生になれ」なんていう師匠もいます。厳しい師匠になると、「もう君は私の弟子ではない。」とか、「そんな半端なことをやっていたら親が泣くぞ(これ、私の師匠の言葉)」とか言って、本気で叱ってくれる場合もあります。

 

 一方、ヒューマンビートボックスは、元々ストリートカルチャー発祥であることもあり、師弟関係なんてそもそも必要とされなかったですし、インターネットの普及で師と仰ぐ人が複数いることが当たり前という環境で発展してきました。

 

 だから、ヒューマンビートボックスにも師弟関係が必要? そんなことを伝えたいわけではありません。多分、インターネットで動画を見ることが普通になっていなければ、師弟関係はもっと必要とされたかもしれません。逆に、インターネットがあったからこそ、ここまでヒューマンビートボックスが世界的に同時的に発展したのかもしれません。たまたまそうなった、文化においても「常なるものなどない」という見方をしています。(ちょっと、仏教的かな)

 

 そんなことを考えていたときに、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』(監督:神山健治 株式会社バンダイナムコアーツ 2005)というアニメを“すらぷるため”さんに紹介されました。そして、その場に同席した『ボイパを論考する』のサイト運営者kazumaさんとの鼎談となり、ヒューマンビートボックスに師弟関係があまり発達してこなかった背景を考えるヒントがこのアニメの中にあると感じました。外出自粛ムードの北海道、今がこのアニメを観るタイミングだ!(家族での外出を控えているので)

 

 すると、このアニメの中に次の台詞が最初と最後のシーンに登場しました。

 

 「我々の間にチームプレイなどという言い訳は存在しない。必要なのはスタンドプレイとして生じるチームワークだけだ。」

 

 ヒューマンビートボックスが今やインターネットと切っても切り離せない、いやインターネットによって進化が加速されてきた文化だとすると、これまでの音楽表現の文化では当然とされてきた師弟関係という構図ではなく、ビートボクサーが相互に情報を、まさにスタンドプレイし並列的に入出力することで、互いの個性があぶり出されていく・・・

 

 私はこれまでヒューマンビートボックスの成立の背景、音楽としての携帯性、柔軟性等に着目してきましたが、どうやらこの文化の発展の背景については、まだまだ理解が不足していたようです。(終)

(2020年3月4日の出会いから)

 

 

【読者の声】早速、反応をいただきました。ありがとうございます! 匿名でご紹介します。皆様もメールやツイッターなどでご遠慮なくご感想をお寄せください。原則として匿名、一部編集の上ご紹介します。

 

◇今のビートボックスって昔よりもやり方が固定されてる感じありますね。知らずにネットの情報の波によって影響されてるっていうのがちょっと恐ろしいです。

 

◇AFRAさん、ZU-nAさん、すらぷるためさんによる、立場やアプローチが異なる3人のプレイヤーが、攻殻機動隊と師弟関係を介してつながる、なんというか、ふだん論文形式という厳しい制約がある分、「自由」を感じる文章ですね!

 

※次回は、日本人初のビートボクサーAFRAさんと、防災と音楽というユニークな活動をされているヴォイスパーカッショニストKAZZとの対談をご紹介する予定です。どうぞお楽しみに!

 

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第3話「ボイパは職人芸や~!」

 

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