共助で支えるライブ文化

 

 大物アーティストではないけれど、地元密着型で音楽活動をしている全ての方へ

今必要なのは補償の署名じゃない!

「共助」精神に基づく地元で支える仕組み作り

 

「こちらは夜中の4時です。グラミー財団が起こしたミュージシャン基金の申し込み書類を作っていました。」

 

 

 米国ニューオリンズ在住、DIRTY DOZEN BRASS BANDというジャズバンドでギターを弾いている新村健(しんむら たけし)さん【写真右】からFACEBOOKで届いたメッセージです。

 

 

 今から30年前、私がまだ上士幌高校で教員駆け出しの頃、彼は部活で私と一緒に音楽を楽しんでくれた生徒で、卒業後もずっと音楽を続けて、今ではそれを生業としているプロのギタリストです。そんな彼も、日本と同様に新型コロナウイルスによるライブハウスの閉鎖で演奏活動の場を失い、6月から予定されていたThe Doobie Brothersとのツアーも中止となり、これからの生活をどうしていこうか悩んでいる中でメッセージをくれたのでした。以下、彼の承諾を得ましたので、私とのやりとりの一部をご紹介します。

 

【私】うわぁやっぱり違うね~。日本では「補償しろ、補償しろ」という声はあがったり、署名集めはするけれど、大口寄付による基金の創設の動きはないんじゃないかな~国民性だね。

 

【新村さん】知っている範囲ですでに4つの基金が立ち上がっています。

 

【私】基金で、どれくらいの保障されるの?

 

【新村さん】まだよくはわからないですが、グラミーの方が1,000ドルくらいで、もう一つは募金がどのくらい来るか次第で500~1,000ドルくらいは公平に分けたいと書いてありました。こちら

 

【私】すごいなぁ、でも申請して通ればの話しだよね?

 

【新村さん】そうですね。無事通ればいいですが。。

 

【私】日本では、署名活動はあるけれど、それは公的救済を求めるもの。募金による基金創設は、やはり日本人の感覚にはないなぁ。

 

【新村さん】もっと個人的なクラウドファウンディングとかはありそうですよね。こういう状況の時はアメリカみたいに州ごとが一つの国みたいに力がある方がいいのかもしれませんね。そして、地方ごとの音楽家の組合もあると良いのかなとも思いました。→日本で使えるパトロンサービス7選まとめサイト(2020年2月29日現在)

ミュージシャンも個人的にこのリンクにあるサイトなどで、投げ銭でライブストリーミングしてたりする人も多いです。

 

【私】そうそう、先日も知り合いのKAZZさんっていうボイパの人が、ツイキャス配信で、1枚3,000円のチケットでインターネット中継ライブをしていたよ。結構な数のお客さんが観てくれたみたい。地元の人と直接繋がっているからだね。

 

【新村さん】アメリカでは、おそらく州ごとに色々な基金があると思います。特に音楽の盛んな街は。応募した4つのうち、2つはニューオリンズの街限定、ルイジアナ州限定の基金です。

 

【私】日本では、「アレをしちゃいけない」「コレが困った」という報道はあるけれど、その情報の波で国民が思考停止状態に陥りそうだよ。

 

【新村さん】日本では、かなり早い段階で大阪のライブハウスでの集団感染でライブハウスが吊るし上げになってしまいましたもんね。こちらも全てがクローズして約3週間。

 

先日、演奏していた昔からのライブハウスが売りに出されていました。。。

 

恐らくこれから、街、州、国から個人のビジネスへの補助金みたいのが配布されると思います。それとは別に、クラウドでお金集めているところも見ました。

 

【私】情報ありがとう。僕は自分の研究活動の中で、色々なビートボクサーやボイパの人にお世話になっているんだ。自分一人じゃなく、「共助」の精神で何とか彼らを支えたいと考えている。この「共助」って言葉を教えてくれたのは、最近知り合ったKAZZさんという防災士の資格ももつボイパの方からなんだ。25年前に起きた阪神淡路大震災を経験していて、彼が言うには、「自助」「共助」「公助」があるっていうのが防災の考え方の基本だってね。そして、

 

「公助※」で助かったのは、阪神淡路大震災の時は22.9%しかいない。助かった人の多くは、自分で自分を守る「自助」か、地域社会で共に助け合う「共助」で命を繋いだってね。

※国や都道府県、市区町村等の行政による支援

 

【新村さん】アメリカは普段から募金を募る集まりで、バンドがノーギャラで演奏するというのが当たり前にあるので、やはり根本的な考え方の違いもあると思います。フランスとかは、ミュージシャンも公務員的なところもあるのでまた違うかもしれないですね。

 

 

【私】そうそう、そいういう気持ちをお金で表す方法も国によって違うね。でもね、資金力のある大物アーティストを除けば、このまま放置しておくと、日本のライブ文化は先細る。そして、一度離れた観客の多くは直ぐには戻ってこない。だからこそ、地元を中心に活動する音楽家は、今が自立するチャンスだと思うんだ。 


日本では大口寄付の基金よりも、地元密着の小口寄付の方が向いている

 

 演歌歌手、J-POPの歌手、オペラ歌手、クラシック演奏家に、ビートボクサー、ボイパ、ジャズバンド・・・どれもみな実演演奏家です。中には、著作権料だけで食べていける人もいるでしょうが、そんな方はごく一握り。残りの方は、実際に演奏してナンボの世界で生きている方々ばかり。弟子がいて月謝収入がある方はまだ良い方で、普段でもライブ演奏のチケットの売券に苦労されている地元密着型のアーティストは多いはず。テレビやCDだけで音楽文化が支えられているわけではないのです。地元にだって、地元密着型のアーティストがたくさんいるのに、その存在に気づいていないだけ。

 

今こそ、“地元密着型アーティスト”の出番!

 

 我こそは地元密着型のアーティストだという自覚のあるみなさん! 皆さんには、「嵐」(ジャニーズ事務所)やHIKAKINさんのような巨大なバックボーンはないけれど、お客さんとの顔が見えるお付き合いがあるじゃないですか。顔が見えるお付き合いこそ、助け合いの基本。 例えば、とある地元密着型のライブ活動を続けてきたアーティストは、次のようなコミュニティサイトを使って、小口の寄付集めに成功しています。大金が集まったり、コロナ騒動前のような状況に戻ったりはしませんが、まさに「共助」の実例です。→CAMPFIRE Community 

 コミュニティを作るのが先か、インターネット配信が先かと言えば、これまでライブ演奏をしてきたみなさんなら、まずはインターネット配信からスタートでしょう! そして、次にコミュニティサイトづくりへと・・・

 

 

 ん? これって「お金がないから本物のビートボックスを手に入れられない」→

「口で模倣して疑似化(ヒューマンビートボックス)」という歴史と似ているんじゃぁないか?

 

 そうです! リアルを疑似化すると、次に疑似化したものが独自に進化をしていく・・・リアルへの枯渇感から、疑似化した文化が発展するというこの流れは、すでに歴史が証明しています。レコードやCD、活動写真(映画)やヒューマンビートボックスも、始まりは疑似体験です。疑似化されたものは、リアルとは別の道を歩み始め、それ独自の良さが見いだされていきます。しかし、リアルがなくなることは決してありません、そう願いたい! (でも、ヒューマンビートボックスは、ネットでしか観たことがないっていう若い世代もいるかな?)

 なお、「リアルへの枯渇感が生み出す音楽のエネルギー」はコラムでも書いていますので、併せてお読みいただければ幸いです。→こちら

 

 昨年度までの研究資料を整理していたら、もういてもたってもいられなくなって勢いで書いた緊急コラムです。少々言い過ぎだったり、強引な論理展開だったりする面はご容赦ください。少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今回ご紹介したサイトを最下段に再掲しておきます。

 

 地元密着型のアーティストのみなさん! 次は、あなたの街へ調査に行くかもしれません。

「新型コロナに、感染しない、させない、明日は我が身」を大前提に 

 

「共助」の精神で頑張りましょう!

 

 

 

日本で使えるパトロンサービス7選。手数料や特徴まとめ

ツイキャス(Twitcasting.jp)

「公助の限界」と自助・共助による「ソフトパワー」の重要性

CAMPFIRE Community

 

【お断り】本コラムで紹介したサイトや資料は、私と新村さんやKAZZさんとのやりとりの中で得た情報を、2020年4月3日に改めて確認した上で掲載しています。なお、本文中の記述内容は研究成果の公表ではなく私個人の見解です。