「残業禁止」「クラウド・ノマド対応」「予算額の要求」〜学生と共に取り組む『総合表現演習』の新たな試み〜

 一般的には、学生には自由になる時間がたくさんあるというイメージがあるのでしょうが、私が勤務する短大の学生は、本当に忙しくしています。「忙」しいの漢字のとおり、「心を亡くす」という状況です。

 

 定期試験、期末レポートに、試験期間中に隙間を埋めるように入ってくる、実習で休講となった分の補講・・・これでもかというくらい、この時期は追い込まれます。そして、授業が終わったらアルバイトがあり、家へ帰るのは夜12時近くなるという学生も珍しくありません。

 

 10数年前から比べると、明らかに学生が自由に使える時間は減ってきいることは事実です。課題を課す方の教員からは見えませんが、ありとあらゆる教員が、一斉にレポート課題を出し、〆切も似たような期限に設定すると、1週間に何本ものレポートが作成されることもしばしばです。

 「これくらいが学生にとってはちょうどいい」などと言ってしまえば、これ以上の話にはなりませんが、毎日アルバイトをせざるを得ないという日常の中で、毎日自由に使える時間が殆ど無いという現状では、課題は単にこなすものとなる懸念さえあります。ただ、だからと言って、試験やレポート、補講をやめてしまうことはできません。

 

 ただでさえ時間がない学生たちです。当然ながら、複数の学生が授業以外で同じ時間に集まるということも、近年はかなり難しくなってきています。中でも、『総合表現演習』は、これまで授業時間外に学生が集まって話し合いをしたり作業をしたりすることに依存してきた面があり、学生も教員もそのことを当たり前と考えてきました。

 

 しかし、もうこのような方法は時代に合わなくなりました。そこで、今年の『総合表現演習』では、次のような新たな試みに挑戦しています。

 

【残業禁止】

 原則として、授業時間内に話し合いや作業を完了させる。

 →これまでは、することがなく、何となく過ごしてきた授業時間の作業クオリティを高めることに繋がります。

 

【クラウド&ノマドワーク対応】

 これまで学生が集まって作業をしていた台本の作成などは、Googleドキュメントを使い、学生がそれぞれ開いている時間に共有画面上で作業したりコメントしたりする。

 →細切れの時間を有効活用でき、また、関係する学生全員が集まらなくても、チャット機能やコメント機能を活用して、コミュニケーションしながら作業できます。

 

【予算枠の提示ではなく、予算額の要求へ】

 →昨年度までは、教員から事前に予算枠を提示してきましたが、今年度からは、何をどのように制作するので費用がいくら必要かという予算額を要求してから配分するという方式に改めました。その効果として、学生は、いきなり物を作るのではなく、試作品を作り、個数を決めるといった手順を踏むようになりました。昨年まで聞かれた、「こんな予算じゃ十分な衣装は作れない」といった声は聞かれなくなりました。

 

 直接集まることだけに拘ると、学生間の接触の回数が減り、かえって関係性が疎遠になってしまうのです。また、制作費も、自分たちが作りたい物と材料費、実際の配分額との違いといったプロセスを経ることで、自らが工夫する機会を得るのです。(家計のやりくりと同じですね。有り金全部を使っていいという意識がなくなりました。)

 

 これまでは、授業時間外はLINEを使って意見交換をしている学生が多かったのですが、LINEは、意見交換の場ではなく、作業完了の連絡をする場へと変わりつつあります。

 

 学生が一人一台スマートフォンを持つ時代になったからこそ、逆にこれをもっと活用して、学生も教員ももっと負担を軽減する。互いにwin-winの関係になることなのに、教育現場でこのような取り組みが進まないのは、なぜなのでしょうか。この疑問は、学生に投げかけてみようと思います。