ビートボクサーAFRAさんとボイパのKAZZさんの初の出会い①

 

 ビートボクサーAFRAさんとボイパ(ヴォーカルパーカッション)のKAZZさん。成立背景の異なる二つの音楽表現ではありますが、共に口(発話器官)を使って音楽をすることは共通しています。そして、この二人にはもう一つ共通点があるのです、それは・・・・

 

 日本国内でまだヒューマンビートボックスやボイパという言葉が流布する前から、コツコツと独自の音楽スタイルを創り上げてきた

 

という点です。年数で言えば、AFRAさんは約20年、KAZZさんは約30年近くになります。そして、時代の方が彼らの後からついてきたと言っていいでしょう。そんな日本を代表するトップ同士の対談という夢のような企画が実現しました! さぞかし準備に準備を重ねて・・・と思われるでしょうが、実はこの対談、あるご縁でたまたま実現したのです。

 当初は私が書いた評論論文『日本におけるヒューマンビートボックスの概念形成~世界的な潮流と日本人ビートボクサー“Afra”との関わりから〜』(日本音楽表現学会2019)の完成と、完成に至るまで何度も聞き取り調査に協力してくださったAFRAさんへの感謝の気持ちを込めて、私と二人だけの会食会(おことわり:初回緊急事態宣言前の2020年1月)をする予定でした。その席に、以前からTwitterで絡んできてくれていたkazuma(@voperc)さん(『ボイパを論考する』の筆者)に、「同席しませんか」と持ちかけたところ、快諾してくださったことがきっかけなのです。

 ご自身もボイパをされ、精緻な筆致で「ボイパを論考する」というサイトを2年前に立ち上げたkazumaさんは、それなら是非この方をご紹介したい、ということでボイパのKAZZさんを紹介してくださり、ナントKAZZさんが、神戸からわざわざ上京してくださったのです。そして、急遽、日本のビートボクサーとボイパの「首脳級会談」が実現したのです。当日は、ビートボクサーのTATSUYAさんも駆けつけてくださり、日本のビートボクサーを綴った初めての論文の完成を祝ってくださいました。 

 今回のコラムは、AFRAさんとKAZZさんの対談を録音してくださったkazumaさん提供の音源を基に、内容を再構成してお届けします。


AFRAさんの食べたいものをごちそうしますよ~ということで、AFRAさんお気に入りのハンバーグ店に皆集合。次々と熱々の料理が運ばれてくる中、話しの方がもっと熱々になり、料理を食べている暇もなかったほど興味深い話しが次々と飛び交いました。

さすが、KAZZさん、ビートボクサーとボイパ関係者には気になるマイクの話題を振ってきました。

 

【KAZZ】Magic Stick(マジックスティック)っていうマイクを作ったきっかけは何かあるんですか。 

 

【AFRA】オーディオテクニカ社から、何か(マイク)作りませんかというオファーがあったんです。元々、"ごっぱー”(Shure SM58)を使っていて、“ごっぱー”でどれだけビートボックスができるかっていうことが重要だと考えていたんですね。ニューヨークにいたときには、自分用のマイクを持っているビートボクサーは確かにいました。でもその時は、「そんなのはズルいやないか、今で言えば、NIKEの何とかっていう靴を履いて記録を出すのと同じやわ~」って思ったんですよ。なぜかと言えば、自分のビートボックスの音を道具のせいにはしたくなかったからからなんです。でも、日本に帰ってきて、自分用のマイクを作らないかというお話をいただいて、迷いがあったものの、こんな機会はないと思い、自分用のマイクとして開発してもらったんです。開発途中では、体育館みたいな場所で、「もっとLowが出た方がいい」とか、色々注文を付けて作ってもらいました。(笑 

 

【KAZZ】何で僕がこんなことを訊いたかといえば、ビートボクサーはマイクを手で囲うでしょう? これってどういった意味があるのかっていう疑問が根底にあったからなんですよ。僕がボイパを始めた頃は、

 

「マイクを手で囲うことは、絶対にやるな」と音響スタッフに言われたものです。

 

 PA担当の人が、ボイパ以外は普通の歌声なので、ボイパだけ音圧が強烈に高くなるのを嫌ったんですね。つまり、ア・カペラ全体のバランスを作りやすくするためには、マイクを手で囲ってはいけないという暗黙の了解があったんです。僕が、ヒューマンビートボックスを見た時に最も衝撃を受けたのは、マイクの持ち方でした。それは、思い切りマイクを手で囲っていたから。マイクを手で囲うという動作は、どこにルーツがあるんでしょうね? 

 

【AFRA】それこそ僕の場合は、それもまさに模倣ですよ。僕はRahzelなどのビートボクサーがすでにそのようなマイクの持ち方をしていたから、そうしただけ。そして、何度も練習する中で、手でマイクを囲った方がこもった音が出て、囲わないとちょっと音が逃げてしまうという感覚をもったんです。だから、手で囲った方が迫力のある音が出せるのが理由なのかなと、自分流に解釈して真似をしていました。でも、難点もあって、囲うと音がこもりすぎるとか、細かいニュアンスが出せないとかがありますね。(『ボイパ本』初版にも同じ記述あります)だから、マイクの持ち方も、その人の技術の一つということになってくるのだと思いますよ。 

 

【KAZZ】僕がいま活動しているBloom Worksでは、ギター(兼ボーカル)とボイパという組み合わせだけれど、自分がマイクを持っているので、よく僕がボーカルだと勘違いされるんです。だから、敢えて、マイクの持ち方をビートボクサーっぽくすることもあるんですよ(笑。 ア・カペラ的に考えると、マイクを手で囲うというのは、絶対にあり得ないんです。なぜならア・カペラには専属PAさんがいることが多いから。ボイパは、ア・カペラの中でコーラス(歌)を食ってしまってはいけない、いかに歌と調和させるかを考えているんです。

 でも、ビートボクサーは自分一人で音楽を創っていかなければならないですよね。例えば、ヒューマンビートボックスは、クラブシーンでの活躍が著しい音楽だという印象があります。僕らボイパがクラブシーンで演奏すると、音が薄いと感じることがある。なぜなら、僕らボイパは、中域の周波数帯でまとまろうとするからだと思うんです。 

 僕らは、ライブハウスで演奏することが多いです。リードボーカルのメッセージを言葉で伝え、ベースがそれを支え、リズムもボイパが作るというバランスを考える・・・。だから、僕が主宰する「ボイパ道場」(ボイパを指導する教室なのですが、最近では小学生がボイパを倣いたいと言って、ビートボックスのスクラッチの仕方を教えてくれと言われることもあるそうです。)などで指導する際は、

 

 「こういう音の出し方をしなさいよ」ではなく、「ここだったらどんな音が必要だと思う」

 

という問いかけを大切にしています。だから、実際の現場では、例えば、ベース音がドーンと出てきたら、ボイパの音色もそれに合わせて変えていくということをよくしますよ。なぜなら、周波数の成分が場面場面で変わるから。 

  

【AFRA】僕らにはない“アンテナ”みたいなものがボイパにはあるね。それは・・・

 

「調和させようとするという“アンテナ”」 

 

【KAZZ】今ではエフェクターを使ったり、電気的に加工したりする技術があります。ア・カペラは、基本的にはそれがなく、さらにそこには日本語という歌詞がある。ボイパが常に主役というわけではありません。ア・カペラって、初めて間もない頃は、みんな探り合って自信なさげに歌い始めることがあるですよ。そんな時は、歌い出しの冒頭でボイパでクラッシュシンバルの音を入れてあげる。そうすると、うまくまとまって聞こえるんですね。コーラスの弱みを隠すためにボイパがカバー(隠す)ということはよくあると思いますよ。

 

「まさに、職人芸や!」(AFRA) 

 

 【KAZZ】ボイパをしていると、ドラムが敵になることがあるんですよ。デビューしたての頃によく言われたのが、「ア・カペラだけではダメだから」という言葉なんです。そこで、楽器を入れるという話しになる、僕は、ドラムの代わりになるといって、ボイパを入れてみたんですが、音が薄いと言われました。そこで、パーカッション(小物打楽器)を入れてみようということになりました。それでも、薄いと言われ、それではドラムを入れてみようとなりました。気がつけば「ボイパの僕はどこへ行けばいいの」となってしまったという笑い話。その時に、自分の居場所がないことに気づいたんです。でも、その時のドラマーのKさんに、言われた言葉が忘れられない。

 

「ぼくね、KAZZ君が羨ましいんだよ。KAZZ君みたいに歌うようなリズムが打ちたい。」

 

 ドラムは同時に複数の音が出せます。でもボイパは息の流れに乗って一つの音しか出さないことがほとんどです。これがグルーブ感に繋がっているのではないかと感じたときに、自分はまだ活きていく道が残されているって思ったんです。

 

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 ボイパとヒューマンビートボックスは、インターネットが普及する以前に萌芽し、全く違う歴史を歩んできました。ビートボクサーAFRAさんも、ボイパのKAZZさんも、そんなインターネット普及前の時代から活躍してきた方々です。後進への文化継承の熱い思いも感じられました。

そして、もしかすると、この二つの音楽表現のシームレス化が始まっているのかもしれない・・・・

そんなことを感じさせる話題も次々と飛び出す一夜となりました。この続きは、また次回に!

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 ◇おことわり

 この文章は公費(科研費)による調査研究を目的とした記録ではありません。飲食費も全て筆者が自費負担しており、公費は一切使用しておりません。また、内容はあくまでも個人の見解であり、研究成果を反映したものではありません。