新オノマトペ誕生!?

 ◇学生の1日をオノマトペで表現する動画の制作

 

  『保育プロジェクト演習』という授業があります。それぞれの教員の研究専門領域を活かしたアクティブラーニングと言うと今風で聞こえがいいですが、いわゆる従来のゼミナール活動の短大版とでも言っておいた方が話は早いかもしれません。私の『保育プロジェクト演習(以下、“ゼミ”)は、オノマトペ活用ゼミです。オノマトペとは、擬音語・擬態語等のことを意味します。日本語には実に沢山のオノマトペがあり、例えば、ドンドンと言えば太鼓のような低い音を表し、トントンと言えば小さな太鼓のような音を示します。他にも沢山あり過ぎて『オノマトペ辞典』が出版されるほど、多くのオノマトペが存在します。私のゼミに集まってきた学生は、オノマトペを保育の活動に活かしたいという志をもち、教材開発や指導法の開発に取り組んできました。ただ、今年はコロナ禍によって学生が集まっての活動がほとんど出来ないという状況が続き、どのようなゼミ活動をしていくかを議論した結果、「学生の1日をオノマトペで表現してみよう」となったのです。しかも、それを1本の動画として作品化するという一見するとハードルの高そうな活動に取り組むことになりました。

 

 

◇元々はオノマトペの保育での活用を研究していたゼミだったが・・・

 

 私のゼミがオノマトペ活用ゼミとなったのには理由があります。元々は、学会の査読付き論文で日本語歌唱の指導法について書いたことがきっかけで、オノマトペの活用法について私自身が興味をもったことがきっかけになっています。そして、それが次第に擬音語・擬態語→声帯模写→直接的模倣音(私の造語)→ヒューマンビートボックス(ヴォーカルパーカッション)という研究テーマへと発展していきました。私自身はビートボクサーでありませんし、ボイパ奏者でもありません。「ボ・ツ・ピ・ツ」「ボ・ツ・カ・ツ」「ド・ツ・カ・ツ」といった、ドラムセットの音を真似たオノマトペを言うことは出来ても、格好いいビートボクサーのような音は出せませんただ、ビートボクサーの大会で毎回出現する新しい奏法(音)への興味や、ボイパとの文化的背景の相違、表現としての面白さや手軽さ等々、沢山の可能性に満ちたヒューマンビートボックスやボイパを保育に取り入れようという姿勢は研究を始めた当初から一貫しています。

 学生も私の風変わりさ(別名、懇親バーベキューゼミ)をある程度理解しており、アイディアが冴える学生が集まってきます。懇親のバーベキューを出来なかった今年は、満足度ガタ落ちかもしれません。(ああ、本当はオノマトペ活用ゼミなのに、バーベキューの有無で評価される・・・なんてことはありませんよね、きっと(笑)

 

 

◇学生の1日をオノマトペで表現そして誕生した新オノマトペ

 

 台詞は一切ありません。朝起きてからの行動をスナップ動画で撮影し、その所々の動作にオノマトペを付けていくという動画作品が完成しました。時を同じくして同じような作風のCMがテレビで放映されていたのには驚きました。確か、調味料か何かのCMだったと思います。生活の中でこれほどまでにオノマトペで表現出来る動作があったのだと私も驚きましたし、当の学生もそれぞれの動画スナップをスマホで作成する際に、こんなに色々なオノマトペを使って表現出来るということに新たな発見があったようです。ただ、聞いたことがないオノマトペが一つだけ含まれていることに気づいたのです。それは・・・

 

 

 ゲチゲチ ゲチゲチ」

 

 どんなシーンで使われるかというと、「これこれ、これが~みたいなシチュエーションで、指を交互に指すような仕草」で使われています。

「もしかして、これは新種のオノマトペではないだとうか。」という考えた私は、オノマトペ辞典を何冊も調べ、ネットや漫画に詳しい知人などにも問い合わせてみました。でも、みなさんからは一様に「そんな言葉は初めて聞く」といった返事が返ってきます。LINE仲間で漫画に詳しいオヤジさんからは、「ゲチャゲチャなら見つけた。グチャグチャみたいな様子を表すときに漫画の中で使われていた。」ということでした。漫画は、オノマトペの宝庫です。『北斗の拳』(原作:武論尊、作画:原哲夫)では、「これ海外の人に伝えるのってどうするのだろう」というオノマトペが目白押しです。「ひでぶっ」「あべしっ」なんて、どうやって英訳されているのでしょう。ちなみにオノマトペとはちょと違いますが「アタタタタ」は、そのまま「ATaTaTaTa」と描かれていました。(英語版『北斗の拳』を紹介したサイト多数あり)

 話は戻って、「ゲチゲチ」です。この言葉を発した当人に聞いてみました。もちろん、ウチのゼミの学生です。スマホの動画編集ソフトのアフレコでこの言葉を入れています。尋ねてみて初めて分かったのですが、この言葉、どうやら複合的な意味で使われているようで、「ここです、これです、これから入ります。」といった意味を指さし確認のポーズを両手で交互にしながら使用する言葉のようです。何となく、「ゲチゲチ」という言葉が浮かんできたというのですから、この学生の表現力の豊かさは、ビートボクサーの新ネタ(新しい音や奏法の開発)に匹敵するくらい凄いことです。何度が聞いているうちに「ゲチゲチ」が、「これから行くぜ~」というような意味に聞こえてくるから不思議です。まるで新しい言語を今まさに習得している感覚すら覚えます。

 

 

◇みなさんの身の回りにもいる“その人語”の使い手

 

 みなさんの身の回りにもきっと「ゲチゲチ」のように、独特の言い回しをする方がいらっしゃるのではないでしょうか。そんなときは、直ぐにメモを取って、私の研究室までご一報ください! 実は、いま進めている研究の中で、ヒューマンビートボックスやヴォーカルパーカッションを言語音から次第にそれらしい音に近づけていくという指導法や教材開発に取り組んでいます。残念ながら、今年度はコロナ禍の影響で実際の指導場面を実地調査させていただく機会はもてなかったのですが、日本の一流プレーヤーがどのような指導をされているか、というお話しだけはインタビュー調査が進んでいます。3月の年度末までにはこのホームページ上での公開を予定しています。

 沢山の言葉の中で生活している私たちにとって、全く新しい表現が母国語で登場することはとても面白いですし、口で出す音の可能性の広さを実感させてくれます。ヒューマンビートボックスが新ネタを披露するのと同じくらい、新オノマトペはその文字をコトバとして読む人たちにとって、新鮮な感覚を与え、私たちの感覚の奥深さを再認識させてくれます。

 新オノマトペを開発してしまったかもしれないM・Tさん! 「ゲチゲチ」を使った日本語表現がもし発見されなかったら、あなたがこの表現の開発者として名を残すことになるかも。読者の皆さん、是非「ゲチゲチ」という表現が使われている漫画、小説、アニメ、映画などがありましたら、河本洋一研究室までご一報ください!(薄謝進呈いたします!)

 

※今回のコラムは、『アメブロ』との共同企画です。