【第8回】ヒューマンビートボックスとヴォイパの楽しみ方とは(前編):AFRA、KAZZ、杉村一馬による鼎談

◇ヒューマンビートボックスという音楽表現

 

 今回は、ヴォイパ研究家の杉村一馬さんからの質問を中心に、ビートボクサーAFRAさんと、ヴォイパのKAZZさんが鼎談をするという構成にしました。内容もヒューマンビートボックスやヴォーカルパーカッションと初めて出会ったという方に向けに制作されているため、経験者にとっては少々物足りない内容かもしれません。でも、日本の第一線で活躍するお二人が語る言葉の中には、何かしらの示唆や説得力を感じることは間違いないでしょう。

 

 さて、初心者の方も経験者の方も、ヒューマンビートボックスを初めて観たのはYouTubeの動画だったという方は決して少なくないでしょう。その動画は再生回数ダントツのDaichiさんだったり、HIKAKINさんだったりする中で、ビートボックスのバトルがオススメ動画に出てきて思わず見入ってしまった方も多いのではないでしょうか。

 ア・カペラの中でヴォーカルパーカッション(通称はヴォイパ)を担当している方は、ヴォイパの動画をネットサーフィンしていたら、いつのまにかビートボックスバトルに行き着いたという方もいるかもしれませんね。

 ※このコラムでは世界的に共通な言い方のヴォーカルパーカッション(vocal percussion)=「ヴォイパ」という言い方を使います。「ボイス・パーカッション」=「ボイパ」は和製英語です。

 「バトル」とは、ビートボクサー同士が短時間で交替しながらその表現力を競い合うことを言います。似たような例では「ラップ」でも同じようなことが行われているのですが、その様子が、まさに“けんか腰”に見えるような時があるのです。相手を挑発してみたり、逆に無視してみたり・・・バトルは一種の競技であり、勝敗が決まります。勝敗はジャッジを務める審査員(通常は有名ビートボクサー)と観客の盛り上がり具合(人気度)を加えて勝敗を決定します。どう見ても、ビートボックスバトルを観る限りは仲が悪そうな感じもするので、ヴォイパ研究家の杉村一馬さんからこんな質問が飛び出しました。

 

 ビートボクサーって仲悪いんですか?

 

 一同笑いが飛び出し、AFRAさんからすかさず「仲はいいと思うんですよ!」という言葉が返ってきました。ただ、各地に沢山のビートボクサーがいるので、それぞれの地域でのコミュニティがあり、その中で仲良くなりながらビートボックスバトルを勝ち抜いてくるので、全国からビートボックスバトルを勝ち抜いた人たちが集まれば、当然地方で負けたビートボクサーは、勝ったビートボクサーの応援に回ることだってあるし、勝ち抜いた物同士のつばぜり合いもあるのです。それは・・・・

 

 甲子園に出られなかった負けチームの高校が代表校を応援するような感じ

 

とでも言えるのではないでしょうか。甲子園よりもお行儀は悪いかもしれませんが(笑 勝敗が付く以上、負けた側には勝った側を気持ちよく送り出したいという心理が働くわけです。このような構図はヒューマンビートボックスに限らず起きている現象ですし、AFRAさんに言わせれば、「罵り合いもエンターテインメント性の一部」であると考えることも出来ます。プロレスと同じです。バトルという場においては、罵声を浴びせることも場を盛り上げる一つの要素になっているのです。

 

 バチバチしている方が観ている方は面白い!

 

 この言葉に、ヒューマンビートボックスのバトルを楽しむヒントがあると言えるでしょう。ただ、バトルは音楽表現を手段とした一種の競技と解釈することもできるため、勝敗を楽しむゲームとして捉えるならば素材は必ずしもヒューマンビートボックスでなくてもよいことになります。

 ヴォイパのKAZZさんが、リズムを重視する文化、例えばタップダンサーのような場合にも、バトル的な要素を感じることがあると言います。そこで次の質問が出てきます。

 

 ヒューマンビートボックスはバトル中心の文化なのか?

 

 これについては、AFRAさんは明確に否定をしました。バトルによって全世界的に広まったという側面があることは否定しないものの、元々は個人で始めた人がルーツになっているといいます。例えば、The Fat BoysのBuffy(故人)だったり、Doug.E Freshだったりを例に挙げ、HipHopという文化の中でリズムマシンが買えないから口で模倣したということが原点になっていることを強調します。バトルが先にありきではなかったのです。これについては、拙論『日本におけるヒューマンビートボックスの概念形成』で詳述していますので、そちらをご覧ください。

 

 ♪『上を向いて歩こう』は自分が日本人であることの証

 

 AFRAさんは、ご自身の演奏の中で坂本九の『上を向いて歩こう』の歌を歌いながらビートボックスを演奏しています。(“AFRA” “上を向いて歩こう”で検索すると多数の動画ヒットします) これはAFRAさんに多大な影響を与えたRahzelがしていたことで、AFRAさんは、ニューヨークにいる自分は日本人なんだということの証を示したかったんだと語っています。でも実は、『上を向いて歩こう』はニューヨークでも“SUKIYAKI SONG”として知られていた有名な曲だったため、何とAFRAさんが演奏する前に、すでにビートボックスの中に取り入れていたビートボクサーがいたのだそうです(初耳!!) それは一体誰なのか・・・ 動画でのAFRAさんのお話にご注目ください。動画の概要欄でも紹介しています。

 

 

 バトルはヒューマンビートボックスへの入口
 その先にはもっと広い世界が広がっている・・・

 

 ヴォーカルとの調和を重んじるヴォイパのKAZZさんの言葉です。

では、ヴォイパの楽しみ方とは? この話題は、後編へと続いていきます。

 

(後編へ続く)