【特別回】札幌の若きビートボクサーYUTAさんとのビートボックスレッスン談義

YUTAさん:Grand Boost Championship vol.3 全国チャンピオン
YUTAさん:Grand Boost Championship vol.3 全国チャンピオン

 このたびの研究では、主にヒューマンビートボックス(ヴォーカルパーカッションを含む)の指導事例を収集し、実際にどのようなプロセスを経て音楽表現を組み立てていくのかを分析し、効果的な指導法を明らかにしていくことを目標としていました。

 ところが2020年4月からコロナ禍でこのような研究の実態を調査することが事実上困難となり、私が勤務する地元札幌で何とか指導事例、しかもその事例を継続的に収集し、その変化の過程を記録できないか検討していたところ、偶然にも「ビートボックスを教えて欲しいがどこにも教えてくれる教室がない。誰かを紹介してくれないか。」というお問い合わせが私のホームページを経由して入り、指導実績は浅いものの、時間に融通が利き、かつビートボクサーとしての実績もあり、指導するという行為について理解のある札幌在住の若きビートボクサーYUTAさんに、小学5年生(当時)の男子A君の指導を継続的ににお願いし、それの映像記録を続けていくことをお願いすることになりました。

 ただし、撮影の同意は得たものの、研究目的のために分析したり加工して公開することまではご本人を含め保護者の方からの同意を得ていないため、現段階ではあくまでも指導プロセスをA君自らが振り返るための記録として撮影を継続しているという段階であることをお断りしておきます。(A君も客観的に自分のビートボクサーとしての姿を見てみたかったんですね)

 したがって、今回の内容は指導を担当したYUTAさんご自身のみの主観に基づく回答であることをご理解ください。

 

自ら出したい音のイメージをもてるようになった
YouTubeの活用が自然に効果的な反転学習へと繋がったことを実感

 

 週1回ペースで合計10回程度の指導をする中で、最も大きな成長を感じたのはこの点であるとYUTAさんは言います。今はYouTubeで様々な情報を得られる時代です。このことについてはこれまでの他の対談の中でも何度も触れられてきたことです。今回撮影機協力してくれた男子小学生も、YouTube の動画を観て「この音を出してみたいんだけれど、どうしたらいい」とか、教えてもいない音を次のレッスンの時には出せるようになっていることもあったと言います。そして、YUTAさん曰く「自分で出したい音のイメージをもつようになったら、自然にその音の出し方を自分で探すようになった」のだそうです。最初は受け身だった男子小学生が、徐々に自ら能動的に音を作り出していくことに目覚めていく様子に、YUTAさんはかなり驚いたそうです。と同時に、YouTubeをうまく活用することがこんなにレッスンの効果を高めるとは思わなかったそうです。まさに、これは事前に自らの課題を発見しておいて、レッスンにおいてそれを解決していくという「反転学習」の事例と言えるでしょう。

 でもYUTAさんはレッスンをしていて問題点も感じていたようです、それは、自分(YUTAさん)が伝えたいこととA君が興味をもつこととは必ずしも一致しないこともあるということです。例えば、「キックドラムの音なら、これ」というように「Aの方法は→Bのようにする」という一問一答的な指導を求めてくるA君に、YUTAさんはもっと音には多様性があることや、リズム感の感じ方などの興味を引き出すことに苦労したと言います。

 これはベテランのビートボクサーでも同じことを言っていました。いかにして、自ら気づき、自ら考え、自ら試してみるように導くか、誘導では無いけれど、導くことの大切さを肌でYUTAさんも感じたようです。

 

YUTAさん自身もYouTubeが“先生”だった・・・

 

初めてヒューマンビートボックスを見たのがYouTubeなら、その技術を習得する情報を得たのもYouTube。とにかくYouTube内で全てが完結していたのです。そして、ヒューマンビートボックスとヴォーカルパーカッション(いわゆるボイパ)は違うものだと、最初は自分の中で勝手に決め込んでいたのだそうです。でも、明確な違いというか線引きをする必要は無いのではないかと感じるようになってきているそうです。勿論、その成立背景は違うことはご存じです。(ナント、卒論のテーマにヒューマンビートボックスを取り上げるくらいですから、ウチの学生じゃないのが残念・・・) A君も、話しを聞いていると、ヴォイパに近いことを意味していることもあるけれど、ヴォイパもヒューマンビートボックスも一括りに「ビートボックス」という大きな括りで語っていたようです。コロナ禍で不要不急の外出の自粛が叫ばれていた時期、当然レッスンも中断せざるを得なかったのですが、A君はYouTubeを教科書のように扱っていたのです、そして、とても興味深い発言がYUTAさんから飛び出しましたそれは・・・

 

自分が自分の先生になっている!

 

という発言です。私も含めてこれまでは、師匠(先生)がいて弟子(生徒)がいてという構図が、音楽表現のような学びの場では当たり前の構図として考えてこられたと思うのですが、これからの時代では、すでに学びのコンテンツとして用意されているYouTubeのようなアーカイブが、事細かに解説するパターンと、視聴者側が自ら何かを発見していくパターンに分かれていくのではないかと思われます。YUTAさんのスタンスはこの後者の方であり、全てをYouTubeで教えようとするのではなく、視聴者自らが発見する糸口を伝えるということを心がけているそうです。実はA君、昭和の時代の音楽がお好きなのだそうです! 詳しくは動画をご覧ください。

 

 

 

教え方は人の数だけ存在する

 

 集団授業が当たり前の今の学校教育の中で、個に応じた指導法を実践することは、この二律背反的な状況にあると言えます。すべての学習内容が個別であるという必要性はないのかもしれません。でも、現在の学校教育の授業が個に応じた指導法を求めていることは、学習塾がどんどん個別化していっていること、放課後等デイサービスの支援が個別化していっているという現状を鑑みると、集団指導の技術を学ぶだけでなく、個別指導の技術を学ぶこともこれからの教員養成(ちょっと話が大きくなってしまいました~)では求められるのではないかと考えます。

 

 

 

 

何もない空間に音を置いていく楽しみ

 

YUTAさんは、ビートボックスの醍醐味をこのように語ってくれました。コロナ禍が収まったら、人前で発表する機会を設けたいと、A君と話しているそうです。たしかに、YouTubeというイヤホンから聞こえてくる音と、ライブ会場のような空間的な拡がりを感じられる音環境とでは、同じ音を出す仕組みを習得したとしても、聞こえてくる音は全くの別物になるのは間違いありません。

 

もし、音楽の先生になったとしたら

YouTubeでは伝わらないことを生身の人間として伝えたい

 

元々、学校の数学教員を目指していたとYUTAさんは、ヒューマンビートボックスと出会ったことで、いい意味で人生を狂わされたのだそうです!(いわゆる理系から文系への転換、文転ってやつですね)

 

だからこそ、YouTubeでは伝えられない、ビートボックスの技術だけでなく、音楽を通じた人間的成長を伝えていきたいと熱く語ってくれました。(詳しくは動画でご覧ください! 熱き思いが伝わってきます!)

 

ヒューマンビートボックスは耳の解像度を上げる by YUTA

 

 

これって、すらぷるためさんが言っていた「デッサン力を上げる」という考え方に極めて近いのではないかと感じたのでした。日頃、音楽表現の保育(教職)課程に身を置く立場としては、とても示唆に富んだ言葉をいただけたました。YUTAさん、ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

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コメント: 1
  • #1

    yuki (土曜日, 17 4月 2021 23:12)

    こんばんは。河本様。
    自分が自分の先生になっている!と言う言葉に、ある話を思いだしました。
    それは「人にものを教えることによって、また自分もその物を教えられることがある。」というセリフです。
    それはやはり自分自身が、その物を理解しない限り、人には教えることが出来ないという事です。
     そのため、その物を理解しようとすると、人にその物を教えると良いという事です。
     昔は物を知ろうとしたら、本を読む、先生に聞くなどが一般的でしたが,
    YouTubeが出てきた今、多種多様性の学び方があるのですね。